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『構われない時間』が子どもを軽くする―宇都宮のフリースクール『ガンダラカフェ』

「フリースクールってすごくにぎやかなイメージで、うちの子には合わなさそう…」

そう思っている保護者の方はいらっしゃいませんか。

例えばカフェにひとりでいると、隣の席の恋バナや悩み事が耳に入ってきます。そんな風に、ただそこにいるだけで、自然にいろいろな大人の考えに触れることができるフリースクールがあります。

青いのぼりが目印

宇都宮市中心部、オリオン通りの裏手を流れる釜川。その遊歩道「釜川プロムナード」沿いにある4階建てのビルを見上げると、青色の「フリースクール」と書かれたのぼりが目に飛び込んできます。

外階段を上ると、ターコイズブルーの重厚な鉄扉がお出迎え。ここがアート&カルチャー系フリースクール「ガンダラカフェ」です。

子どもを変えようとせず、「ただそこにいていい」を貫くこのスクールは、不登校に悩む保護者にとって、新しい選択肢のかたちを示してくれます。

今回は「ガンダラカフェ」代表のナマイさんと店長の小林さんにお話を伺いました。

「ガンダラ」という名前に込められた意味

――「ガンダラカフェ」の「ガンダラ」の由来を教えてください。

ナマイさん:ゴダイゴの楽曲「ガンダーラ」から取りました。最初の一節「そこに行けばどんな夢もかなうというよ」に共鳴し、ここがそんな場所になればと思ったんです。もともとは宇都宮のアーティストたちの活動の場として立ち上げようとしていましたが、時期を同じくして、当時小学2年生の長女が学校に行かなくなりました。私自身も学校に行けないタイプだったので、さほど焦りはありませんでした。ただ、友達や仲間の存在は必要だと思っていて。それを見つけるのは絶対に学校じゃなくていいと思っていました。長女もアート系が好きだったので、「学校に行かないなら、ここで友達を作ればいい」と思い、イベントスペース兼居場所のような形でオープンしました。

――最初はフリースクールではなかったんですね。

ナマイさん:そうなんです。でも、当時は収益確保に追われて迷走していました。1年くらい経って、一度店を閉めようと思い長女と次女に伝えたんです。すると、しばらく黙って聞いていた長女が涙を流しながら「ここがなくなっちゃうと辛い」って言ったんです。時々カフェでVチューバーのモデル作り講座などを開いていたんですが、そういう集まりがすごく楽しかったみたいで。

――そう言われてどうでしたか?

ナマイさん:びっくりしました。店を辞めれば子どもたちに寄り添えるから、むしろ喜ばれると思っていたので。でも、そのとき気がついたんです。子どものための居場所として作ったはずなのに、収益ばかりを追うようになって徐々にブレてしまったことに。改めて原点に立ち返り「フリースクールにしよう」と思い立ちました。そこから準備を進め、2025年4月にフリースクールとして再オープンしました。

カフェのように過ごす子どもたち

――現在はどんな子が通っていますか?

ナマイさん:中学生4人、小学生2人の計6人が在籍しています。みんな思い思いに過ごしていて、自分の好きな分野に熱中する子が多い気がしますね。ジャンク品を買ってきて修理したり、3Dプリンターでものづくりに没頭したり、好きなVチューバーの切り抜き動画を編集したり。

ガンダラカフェには様々な機材が揃っており、子どもたちは自由に使っている

小林さん:みんな割とバラバラに過ごしているから、「みんなで何かやろう!」と言っても乗ってこない子が多いんです。高校生のボランティアの子たちに来てもらっているのですが、うちはそういう感じなので一緒に遊んだりしない代わりに、ボランティアの子同士でおしゃべりをしてもらっています。

――というと?

小林さん:ボランティアの子たちの会話を子どもたちは聞いています。実は、その何気ない会話に触れること自体が、子どもたちにとっては貴重な体験なんです。ボランティアの子の宿題の話や趣味の話などをちらっと聞いて、少しだけ外と関わっている感覚を味わってもらっています。

ナマイさん:ボランティアの子たちが恋バナしていると、急にニヤってする子もいるよね笑

小林さん:そうそう笑 

ナマイさん:うちはカフェなんで、他人の会話を聞きながらお茶を飲んでいる感じですね。

小林さん:他にも、専門学校の先生や大学の恩師の方などが営業時間中に来てくださることもあります。私たちの個人的なつながりで、戦隊俳優さんや声優さん、写真家さんなど、多様な職業の方に来てもらうこともあります。子どもと直接交流することもあれば、子どもと直接話さなくても、その方々と私たちが話しているのを聞かせています。

ナマイさん:大人が来ると、「なんでその職業をやっているのか」という質問を必ずしています。そうすると「30過ぎてからこの仕事を始めた」とか「最初はこれを目指していたのに気づいたらこっちにいた」などいろんな話が出てきます。そういう話を聞けば、子どもたちが「道は一つじゃないんだ」って気がつくんじゃないかと思って。学校に行かないことで道から逸れてしまったと人生を諦めてしまう子も多いんですよね。いやいや、道に逸れようが人生って案外大丈夫なんだよっていうのを伝えたいんです。

小林さん:いろんな大人のいろんな人生を聞いて、ふんわりとした目標みたいなのを見つけてほしいと思っています。なんとなく勉強しておいたほうがいいのかなっていう気持ちになるかもしれないし。

ナマイさん:急にやる気が出て、急にやりはじめたりしますからね。勉強でもなんでも。

「成果を残さなきゃ」という子どもの重荷を軽くする、二人の絶妙な関係性

代表のナマイさん(左)と店長の小林さん(右)

――そもそもお二人はどんな関係なんですか?

ナマイさん:高校の演劇部で先輩と後輩だったんです。もう30年来の付き合いになります。高校時代から部活以外の自主公演もやったりしていて。音楽から美術から何から全部自分たちでやっていたんで、そういうノウハウは持っているんですよ。

――子どもたちにも教えたりしているんですか?

小林さん:教えられるんですけど、教えなくても勝手に学んじゃうんですよね。子どもたちは動画で勉強して、自己流でやっています。それで出来ちゃうからすごいですね。

――子どもたちが夢中になるものは、こちらで見つけたんですか?

小林さん:もともとイラストや動画編集などが好きで、家でやっていた子が多い印象ですが、こちらに来てからピアノの動画を見て、実際に弾きはじめたりすることもあります。すぐ弾けるようになって、こちらが驚かされることが多いですね。ここには機材や道具が揃っていて、自由に使える環境がいいのかもしれません。

――ところで、店長の小林さんは子どもたちから「ポジティブ教祖」と呼ばれているとか。

ナマイさん:店長は自己肯定感が強めなんです笑

小林さん:例えば、子どもが「最近眠れなくて」という相談をしてきたら、「え?布団に入れば眠れると思うよ。布団に入った?」みたいなアドバイスしかしないんです笑 「痩せたい。小顔になりたい」って言う子には、「え?画面から遠くに離れれば、遠近法で小顔になれるよ」って言いました笑 そんなことを続けていたら「ポジティブ教祖」なんて言われるようになったんです。

ナマイさん:相談している子どもたちが、「もういいや」ってなるんですよね。店長のかかわりを見て、そういう対応の仕方もあるなって思いました。

――そんな風に返されたら、「まあいっか」ってなりますね笑

小林さん:子どもたちを見ていると、周りから期待されていると思い込んでいる子が多いような気がするんです。親御さんにそういうつもりがなくても、子どもが期待を敏感に感じ取って、「何か成果を残さなきゃ」って思ってしまっている。それで、何もしない自分を責めて、自分自身を諦めちゃうんですよね。だから、子どもたちの重たくなっているものを軽くする調整役のようなつもりでいます。

「構われない時間」が、子どもを軽くする

ナマイさん:店長は子どものことをずっと肯定していくんですよね。

小林さん:なんとなく感じているのは、ここに来て「構われない時間」が大事なのかなって。保護者の方が意気込んで色々やらせようすることもあって、一応やるかどうか声を掛けるんですが、「(やらないで)大丈夫です」って。静かにしていたいんだと思います。大人も放っておかれたいときってあるじゃないですか。

ナマイさん:静かにしていても、ボランティアの子たちの話なんかはちゃんと聞いているんだよね。私たちも二人で愚痴とか推し活のこととか話すんですが、大人はダメでも生きてるぞ、大人も割とダメだぞっていうことを伝えているつもりです。

――お二人が子どもたちと関わるときに意識していることはありますか?

ナマイさん:初めて来たときはひとことふたこと声を掛けるんですが、基本は「待ち」の姿勢です。あとは、割と子どもたちに教わる側になることが多いかな。

小林さん:あんまりグイグイいかないようにしています。みんな自分勝手に過ごしているんだけど、それでいいと思っていて。ただ、自分を受け入れてくれる場所がここにもあるんだよ、というのは伝わってほしいと思っています。

ナマイさん:ここでイベントを開催するときに、子どもたちにお手伝いをしてもらうことがあります。ドリンクを出したり、席の片付けをしたり。それを10分100円の報酬制にしています。もちろんやりたい子だけやる形にしていますが、人前に出たくない子もその場所にはいたいみたいです。そういう雰囲気を味わいたいんですよね。

小林さん:イベントに来てくれる一般の大人たちも、子どもたちに向ける眼差しが優しいんですよ。

ナマイさん:ここはテストがないので評価がないんですよね。そういう中で一番わかりやすいのはお金なのかなって。子どもたちのやりがいにもなっているようです。

ガンダラカフェでは定期的にイベントを開催している。今年8月1日には3周年イベントを開催。
オープンステージでは、フリースクール生もバンドメンバーとして参加した

子どもたちの変化

――卒業生や在籍している子たちの変化を感じることはありますか?

ナマイさん:去年、「もう今日死にます」っていう男の子がいて。きっかけは好きなラッパーが自殺しちゃったことだったらしいんですけど。

小林さん:お母さんから「本人が『今日死にたい』と言いながら行きました」って連絡が来て。でも、普通にここに来たんですよね。それで私が話しかけてみたんですよ。「え、なに、今日死ぬの?どういう風に死にたいとか調べたりした?こういう風に死んだら、こうなるかもね」とか話してたら、すごく嫌な顔をされて笑 でも夜には機嫌が治っていたみたい。

――一見、ハラハラするような掛け合いですよね。そういうときに「死ぬなんて言っちゃだめだよ」なんて言いがちですけど。

小林さん:私も中学生のときに死にたかったし、しょっちゅう死にたいって言っていたから、そういうものだろうなと思って。とりあえず口に出したいこともあるんだと思います。その子のお母さんからは「家に帰ったら『ごめんね』って置手紙がしてありました」って連絡が来ました。

――小林さんの「否定も過剰な同情もしない」フラットな態度が、かえってその子の張り詰めた心を緩めたのかもしれませんね。

ナマイさん:ここで色んな大人の話を聞くことも、変化が生まれる要因なのかもしれません。それに、ずっと家にいるとどうしても親子でギスギスしてしまうので、気持ちを切り替える場になっていると思います。

小林さん:この辺は通信制高校が多いので、ここを卒業して高校に入った子が、よく遊びに来てくれるんですよ。きっと学校で頑張っているんだと思います。そうはいっても、ここでスマホをいじっているだけなんですけどね笑 でも、卒業した後でもここがその子たちの居場所になっているのは嬉しいですね。

――卒業後の子どもたちにとっても、ホッとできる居場所になっているんですね。

保護者もひと息つける場所

――子どもたちの居場所であるガンダラカフェは、実は保護者にとっても「ひと息つける場所」になっているそうですね。

ナマイさん:こちらはWi-Fiも完備されているので、遠方から送迎に来る保護者の方がリモートワークすることがあります。保護者の付き添いは必須ではありませんが、お子さんを見守りたい方は自由に利用していただくことができます。お子さんを見守りながら趣味のことをしていただいてもいいですし。事前に希望を出してくだされば、有料で昼食を提供することもできます。

こちらの席でリモートワークする保護者の方も

――保護者の方々を集めてお茶会なども開催されていたとか。

ナマイさん:そうですね。希望があれば個別面談もしていますし、去年は保護者の方を集めて、ここでお茶を飲みながら雑談する会を月に1回ほど開いていました。私は占いができるので、タロット占いをすることもありました。案外占いが好きな方も多く、雰囲気が和らぐんですよね。

――保護者の方々はどのような様子でしょうか?

ナマイさん:話してスッキリして帰られる方が多いですね。ただ、日常に戻るとまたいろいろ抱えてしまう。だからまた話しに来て、少し気持ちを軽くして帰る。そんな感じです。

――不登校になると、子どもだけでなく保護者も孤立しがちです。

ナマイさん:そうですね。だからこそ、ここではなるべくポジティブな言葉を使うようにしています。私は言霊の力ってあると思っていて。前向きな言葉を使っていると、自然と気持ちもそちらへ向かっていく気がするんです。

得意なことが、生きる力になる日のために

――今後はガンダラカフェをどんなフリースクールにしたいか、理想として描くものはありますか?

ナマイさん:理想は子どもたちだけで仕事になると良いなと思っています。子どもたちの得意なことを活かして、コンテンツを作ったりして。例えば、映像を作る子、歌を歌う子、グッズを作る子など、才能を活かして役割分担をして仕事にしてほしい。ただ、発表するのが怖い子もいます。どんな矢面に立たされるかわからないし。そこで、ガンダラカフェをプラットフォームにして発表する場を作るのがいいんじゃないかなって。ここで子どもたちが成功体験を積めば自信になるし、道が見つかるかなと思っています。

小林さん:アートに特化したものばかりじゃなくて、それを支えるマネジメントや企画が得意な子もいます。アート系に限らずいろんな分野でその子の特徴を見つけられたらいいのかなと思います。

保護者の方へメッセージ

――今まさに不登校に悩む保護者の方へメッセージをお願いします。

ナマイさん:親御さんだけでもいいので、ちょっと話に来てみてください。「お子さんを通わせるため」とか気負わなくていいので。子どもを何とかしなきゃと頑張るよりも、いろいろな人と出会い、その人たちの人生の話を聞いてみてほしいです。すると、「こんな生き方もあるんだ」「そんなに悩まなくても大丈夫なんだ」と思えるようになるかもしれません。そんな感じで、お母さんやお父さんが楽になる場所として使ってほしいと思っています。

小林さん:ここに来て、何かひとつでも見つかればいいな、くらいの気持ちで来てもらえればと思います。絶対に何かを見つけなきゃ、と気負う必要はありません。ゆるーくやっていますので、肩の力を抜いて来てみてください。

取材を通して印象的だったのは、お二人が子どもたちの「構われない時間」を尊重していることでした。

ガンダラカフェには、子どもたちに積極的にかかわっていこうとする雰囲気よりも、「ただここにいていい」という穏やかで心地よい空気が流れています。ボランティア同士の何気ない会話に耳を傾けたり、好きなことに没頭したり、ときにはスマートフォンを触りながら過ごしたり。子どもたちはそれぞれのペースで、ここにいることができます。

「構われない時間」がある。だからこそ、子どもたちは少しずつ自分のペースで動き出していくのかもしれません。ガンダラカフェは、そんな「もうひとつの居場所」でした。

 なお、ガンダラカフェではフリースクールの時間以外で、宇都宮市から委託を受けた「宮っ子の居場所」「共生の居場所」も運営しています。子どもたちもその時間に居残ることも可能です。日常的にさまざまな大人が出入りし、子どもたちは自然な形で多様な人との接点を持つこともできます。

※本文中の「死にたい」と話したお子さんのエピソードは、店長である小林さんの日頃からのかかわりや、保護者の方とお子さんの信頼関係があった中での一事例です。同様の対応がすべてのお子さんに適しているとは限りません。お子さんから「死にたい」「消えたい」などの訴えがあった場合は、一人で抱え込まず、専門機関や相談窓口にご相談ください。 

お母さんのほけんしつ
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