夏休みも中盤に差し掛かりました。不登校のお子さんがいるご家庭では、夏休み明けのことを考えると心がざわざわする親御さんも多いのではないでしょうか。「夏休みが明けてもこのままだったらどうしよう」「進路について、子どもにどう切り出せばいいかわからない」など、特に卒業後の進路が現実的になってくる中学生の親御さんは、今後の身の振り方に焦りはじめる時期かもしれません。実は、夏休み明けはお子さん自身も心が揺れる時期のようです。親子共に不安定になる前に今からできることはあるのでしょうか。ご自身も不登校を経験した二人の息子さんを育てる母であり、不登校の子を持つ親御さんの相談も多数受けている子育て心理学上級カウンセラーの佐藤陽子さんにお話を伺いました。
——佐藤さんの現在の活動をお聞かせください。
栃木県の自宅で「ひつじCafe」という、親御さんが学び、癒され、仲間も見つかる居場所を提供しています。こちらでは不登校のお子さんを持つ親御さんの個人相談や、子育てに関する講座も開催しています。不登校の子を持つ親御さんは、とくに子育てについて学びたいと熱心な方も多いです。
私はもともと結婚前に9年間小学校で教員をしていました。その経験を活かし、長男が小学1年生の頃に、自宅で小学生のお子さんに勉強を教える「親子塾」を開きました。勉強が名目ですが、子どもだけではなく親のための居場所も作りたかったんです。子どもたちは勉強が終わるとそのまま私の自宅で遊ぶのですが、その間に親御さんの悩みを聞いていました。私は子どもが幼稚園の頃から心理学に興味を持ち始め、学び始めていました。そのうち学んだ知識を役立てたいと思い、親御さんに伝えることもありました。ところが、長男が小学2年生になった頃、学校への行き渋りが本格化してきたんです。人に教える以前に、自分が子どものために学ぶ必要に迫られました。私が教員になったのは学校が大好きだったから。なので、子どもが「学校に行きたくない」というのはなかなか受け入れられませんでした。そこで当時は、子どもが保健室登校をしていたので、その間に子育て心理学インストラクター講座へ通いました。その学びで私自身が落ち着いていったのです。そして、インストラクター資格を取得後、たまたま友人が子育てに悩んでいたので子育て心理学講座を開催しました。それが「ひつじCafe」の始まりです。

—―夏休み明けが近づくと相談も増えるのでしょうか?
そうですね、相談も増えてきます。この時期はお子さんというより、まず親御さんが不安になることが多いようです。そのため、自分の不安を解消するために急にお子さんへの対応を変えることもよくあります。夏休み明けという節目に「もしかしたら学校に行けるようになるかもしれないから、朝早く起こすようにしておこう」「学校に行けても勉強についていけないかもしれないから、今から勉強させておかなきゃ」など、親御さん自身の焦りから、お子さんに何かさせようとしがちです。でも、その行動はお子さんの意向に反している場合もありますし、そもそもお子さんの「ココロ貯金」を減らしてしまうので、あまりいい対応とはいえません。
子どもの自己肯定感を上げる「ココロ貯金®」
——「ココロ貯金」とは何ですか?
一般社団法人子育て心理学協会の代表理事である東ちひろさんが提唱した、心理学の交流分析に基づいた「ココロ貯金」を貯めるというメソッドです。親がお子さんに「話を聴く、承認する、触れる」などのかかわりをすると、お子さんに愛情が伝わります。その愛情が貯金となってお子さんの心に貯まっていくことを、東さんは「ココロ貯金」と名付けました。この「ココロ貯金」が貯まれば、お子さんの自己肯定感や自信、やる気が自然と湧き上がってくるのです。
ところが、子どもによかれと思って親が無理に「早起きをさせよう」「勉強をさせよう」とすると、子どもの自己肯定感は削がれ、「ココロ貯金」がマイナスになってしまいます。
「ココロ貯金」が貯まる対応とは、お子さんを否定しないことです。まずは、お子さん自身が丸ごと親に受け入れられていると感じる必要があります。難しく考えることはありません。例えば、「○○ちゃん、おはよう」と名前を呼んであいさつする。まずはそれだけでいいのです。よく話してくれるお子さんなら、ただ「うんうん」と聴く。途中で口を挟まず、アドバイスもしない。あまり話さないお子さんなら、こちらから天気の話など何でもない話題を振ります。思春期のお子さんにはウザがられる可能性はありますが(笑)、嫌がられる場合はあいさつだけでもいい。もしお子さんが自分から好きなことを話し始めたら「ココロ貯金」がたくさん貯まる絶好のチャンスです。私の息子は口数が少ないですが、ポケモンの話になると饒舌になりました。そういう話が出たら、自分からは話さずひたすら聴く。それだけでいいんです。あとは、触れることを嫌がらないお子さんならマッサージをしてあげるなどもいいですね。そういう対応を続けると、お子さんの「ココロ貯金」が貯まっていきます。まずはお子さんの「ココロ貯金」を貯めることが何よりも大切なんです。
——ただ、お子さんが不登校状態だと親御さんの不安感が強く、子どもに対しておおらかに対応できない場合も多いのではないでしょうか。
そうですね。特にお子さんが家でゲームやYouTube三昧だと不安でしょうし、イライラして、受け入れるのが難しいかもしれません。でも、そういう場面での対処法を事前に知っていれば、子どもがどんな姿でも落ち着いていられます。そもそもゲームやYouTube三昧になるのは、子どもに「ココロ貯金」がたまっていない現れです。それさえ知っていれば、じゃあ「ココロ貯金」が貯まるような対応を続ければいいんだ、と理解できます。子どもの行動を問題視してゲームやYouTubeを無理やり取り上げると、ただでさえ「ココロ貯金」がない状態からさらに悪化してしまい、ますます親子関係がうまくいかなくなります。子どもの行動にスポットを当てず、逆にお子さんの好きなゲームやYouTubeチャンネルの話を振って「ココロ貯金」を貯める視点に切り替えます。そういう対応を繰り返していけば、ある日ゲーム三昧でなかなかご飯を食べなかった子どもが、ゲームを止める時間が早くなったりします。本当に少しずつですが、確実に子どもは変わっていきます。大事なのは根気よく続けることです。

親御さんにも「ココロ貯金®」が必要
——一方で親御さんも、学校からの連絡に疲弊したり葛藤があったりして、精神状態が不安定になることも多いと思います。親御さん自身にも何かできることはあるのでしょうか?
お子さん同様に、親御さん自身の「ココロ貯金」も貯めていく必要があります。私たち親も話を聴いてもらわないと貯金は貯まりません。地域の「不登校の親の会」など、同じ境遇の人達が集まる場所で愚痴を言い合うのもいいでしょう。子どもの話を聴いて口を挟みたくなることもあるかもしれませんが、子どもの前ではぐっと我慢して、同じ境遇同士で吐き出してみてください。最近は不登校の親が集まるオープンチャットも色々あるので、そうした環境に身を置くのもいいかもしれません。とにかく仲間をたくさん作ることが大切です。私がおすすめしているのは、少しだけ先を行く先輩たちの話を聞くこと。「うちもこうだったけど、今こうなっているよ」といったような話を聞くことで、「今のままで大丈夫」と確認することが大切です。それも1回だけではなく、こまめに確認する必要があります。私自身も、長男が中学3年生になると学校から進路の話を頻繁に聞くようになり、心が揺らぎそうになりました。ですが、私はあらかじめまわりのママさんからさまざまなモデルケースを聞いていたので、焦りはありませんでした。
——夏休み明けに向けて、お子さんと今後について話をしたいと思っている親御さんも多いと思います。そういう話をしても大丈夫と思えるような親子関係の指標のようなものがあれば教えていただきたいです。
子どもの「ココロ貯金」がしっかり貯まったときでしょうか。子どもの「ココロ貯金」が貯まったと感じる場面にはいくつかありますが、子どもの立ち直りが早くなるのも一つの指標です。例えば、親御さんとお子さんが言い合いになった後、お子さんが部屋からなかなか出てこなかったのが、何分かしたらケロッとしてリビングに出てきたなど、立ち直るまでの時間が短くなります。そうすると、親が楽になっていくんです。
ただ、渦中にいる親自身はその変化になかなか気づきにくいんですよね。そういう時に私たちのような第三者の視点が入るといいと思います。例えば、私が伴走している親御さんに「最近、お子さんの様子はどう?」と訊くとします。するとその親御さんが「リビングでYouTubeばかり見ています」と話されることがあります。そこで私は今までの相談履歴を振り返りながら、「あれ?この前まで部屋から出てこないって言っていたよね」とお子さんの変化に気づいた点を伝えます。すると親御さんは「そういえば、この頃はリビングに出てきますね」とか気付いたりします。このように第三者から客観的なフィードバックがあると、親御さんが親子関係のわずかな変化にも気がつけるようになります。

子どもと雑談ができるかどうか
親子関係を相談できる第三者がいなければ、お子さんと雑談ができる関係性かどうかが一つの指標になると思います。小さな雑談が自然とできる関係であれば、雑談の流れで子どもに「そういえば高校のパンフレットもらってきたんだ」と情報提供してみてください。もし子どもが無言になったり部屋に戻ったりしたら、「早かったな」と思って一旦ひっこめましょう(笑)。そしてまた、「ココロ貯金」を貯める対応をする。トライアンドエラーでいいんですよ。
最終的には雑談も含めて何でも話せるような親子関係であれば、何を話しても大丈夫です。そこまでいけば、もし親御さんが少しくらい対応を間違えてもリカバーできます。私は10年以上「ココロ貯金」メソッドを使って子どもへの対応をしていますが、それでもやはり間違うときがあります。つい先日も、高校3年生の長男へつい正論を振りかざしてしまいました。長男は黙って聞いていました。でも、正論を言ってしまったことを後で謝ったんです。すると子どもが「あれ言ってもらえて、やる気が出た」と言ってくれて。時間はがかかりましたが、これが最終形だと思いました。以前の長男だったら、私が正論を言えばすぐに心を閉ざしていたんです。なので、「ココロ貯金」がたまれば、少し対応を間違えたくらいでは関係性は揺るぎません。
——雑談ベースでたくさん話せる関係を作ることが大事なんですね。
そうです。友人や同僚もそうですよね。雑談から入って、いろいろ話していくうちに「この人には本音を話しても大丈夫だな」と感じられるんだと思います。他人にはそういう対応ができるのに、親子関係や夫婦関係などの家族関係においては正論を言ったり高圧的になったり、遠慮がなくなります。子どもも一人の人間として対等に話ができる関係を目指してほしいです。そのために「ココロ貯金」を貯める対応ができたらいいですよね。
——最後に、夏休み明けに向けて心がざわついてしまう親御さんに向けてメッセージをお願いします。
親御さんはすでにそのときにするべき最善を尽くしています。自分を責めず、ご自身が頑張っていることをまずは認めてほしいです。そのうえで、気持ちがざわざわしても、淡々とお子さんとご自身の「ココロ貯金」を貯めていくだけで大丈夫ですよ。
もし、不安に駆られてどうしようもなかったり、アドバイスが欲しかったりする場合は、一人で抱え込まずに第三者に相談してみてください。
【プロフィール】佐藤陽子(さとう・ようこ)
栃木県在住。北海道で小学校教員として9年間勤務したのち、結婚と同時に栃木県に移り住む。子育て心理学協会で心理学を学び、自宅でママの学びと癒やしの場「ひつじCafe」を開く。子育てに悩むお母さんの相談をメインに不登校に関する相談も受けている。相談件数は1000件を超える。「ココロ貯金®」講座も開催。子育て心理学上級インストラクター・上級カウンセラー・セラピスト。

筆者:森萌佳
不登校ライター|国家資格キャリアコンサルタント。
娘の不登校を機に母親として感じた孤独や葛藤を言葉にし始める。国家資格キャリアコンサルタントとしての視点を生かしつつ、不登校や母親の生きづらさなどの社会課題をテーマに執筆・発信している。
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