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【後編】「今のあなたでいい」――デンマークのペダゴーに学ぶ、不登校の子との向き合い方

 一般社団法人ペダゴージャパンの代表理事を務める工藤敬子さんは、自身の娘さんの不登校をきっかけに、デンマークの専門職「ペダゴー」と出会い、その理念や実践を日本に伝える活動を続けています。

 前編では、工藤さんがペダゴーに注目した背景と、ペダゴーが大切にしている考え方や価値観について伺いました。子どもの声を聞き、対話しながら一緒に考えていくこと。そして、デンマークでは民主主義が日々の生活の中に根付いていることについても紹介しました。


 では、その考え方は家庭の中でどのように生かせるのでしょうか。不登校の子を持つ親が、今日から少し意識できることは何なのでしょうか。

 工藤さん自身の経験も交えながら、子どもとのかかわり方のヒントを見ていきます。

「Being with」にある、ペダゴー的かかわり方

――ペダゴーの方々は、日々どのようにして子どもたちとかかわっているのでしょうか。

工藤さん:ペダゴーのかかわりを表す言葉の一つに、「Being with(共にある)」があります。何かを教えたり、すぐに解決したりする前に、まずその子と一緒にいる。その人を一人の人間として尊重し、同じ目線でかかわろうとする姿勢です。ペダゴーは授業や休み時間、学童保育などの日常の中で、子どもと時間を共にしながら、その子の声や表情、日々の小さな変化に目を向けていきます。

――それは具体的にどういうことなのでしょうか。

工藤さん:「今のあなたで素敵だよ」「あなたのままでいいよ」というまなざしを持って接するということです。私たちはつい、「次は何ができるようになるか」「これからどう成長するか」に目を向けがちです。デンマークでは子どもを自分なりの力や可能性を持った存在として捉えます。だからこそ、まず今のその子を受けとめる。子どもたちは、受け止めてくれる安心の中から、自分で動き出そうとする力が少しずつ育っていくのだと思います。

――その考え方は、不登校の子を持つ保護者の方々にも実践できそうです。

工藤さん:子どもが不登校になると「このままで将来どうしよう」「一生家から出られなかったらどうしよう」など不安になることが多いですよね。学校に行っていない時間が長くなるほど、親としては何かしてあげなければと焦ることもあると思います。でも、子どもを急いで変えようとするよりも、まずは安心して過ごせる関係や、安心できる時間をつくることが大切です。Being withのかかわりを続けながら、その子自身が次の一歩を選ぼうとする時を待つことも必要なのだと思います。

――具体的にどういうかかわりをすればいいのでしょうか。

工藤さん:子どもを一人の人間として尊重し、向き合っていくことだと思います。親子でお互いにどんな気持ちでいるのかを素直に伝え合っていくのです。「親としてはすごく心配になるときがあるから、ついつい言いすぎちゃってごめんね」とか「今どんな気持ち?心がザワザワする?」とか。そうやって、お互いの気持ちを少しずつ言葉にできる関係も、「Being with」の一つだと思います。保護者の方は保護者の立場として悩みや辛さがありますよね。親だからといって、完璧である必要はありません。揺れたり悩んだりしていることを言ってもいいと思います。「あなたのことが心配だから、ついつい口出ししちゃうんだ。でも、あなたの気持ちも聞きたい」と伝えていいんです。

――確かに親になると「ちゃんとした親でいなきゃ」「子どもが道から外れないように自分がしっかりしなきゃ」と自分で自分にプレッシャーを与えがちです。

工藤さん:学校に行けない子ども自身も、「行かなければ」と思っていたり、親を心配させたくないと思っていたりすることがあります。それでも行けないときには、その子なりの理由や苦しさがある。まずは、その状態を意思の弱さや怠けと決めつけずに、その子に何が起きているのかを一緒に考えていくことが大切だと思います。

工藤さん自身の子育てで大切にしてきたこと

――工藤さん自身も子育てでペダゴーの学びが役立ったことはあるのでしょうか。

工藤さん:私はそもそも「この子の人生は私の人生じゃない」と思っていました。高校に行けなくなってしまったときも「辞めてもいいんだよ」と言いましたし、大学入学後も娘は「大変」と漏らしていたので、「辞めるという選択もあるよ」と言いました。でも、その選択肢を与えてあげることも、子どもの安心を守るために大切なことだったと思います。そして、不登校になったときも一貫して私が言い続けたのは「自分を責めないで」ということです。娘は辞めることにためらいがあったようですが、「あなた自身が悪いわけではなく、今いる環境が合っていないこともあるよ」と伝え続けていました。

――それを言える保護者の方は多くないと思います。

工藤さん:大学を「辞めるという選択もあるよ」と言ったときも、娘からは「普通は引き止めるよ」と言われました。私は「行く」「行かない」よりも、「休む」という選択肢もあるのではないかと思ったんです。結果、娘は2年間休学をしてから、違う大学を受け直す選択をしました。

 私がこういう考えなのは、父の影響が大きいです。私自身は高校浪人を経験しましたが、当時としてはかなり少数派でした。

 でも私はどうしてもその高校に行きたくて。父は浪人することを止めませんでした。次の年に私は希望の高校に合格しましたが、振り返ってみると、その一年は私の人生にとって決して遠回りではありませんでした。そうした自分自身の経験があったからこそ、娘にも「一つの道から外れたからといって、人生が決まるわけではない」と思えたのだと思います。

――確かに、親からしてもらったことが、自分の子育てにつながっている部分は大きいですね。

工藤さん:私にとって父は、子育てのお手本のような存在です。父は、私が自分のやりたいことを見つけるまでは見守り、何かに挑戦したいと思ったときには全力で応援してくれました。また、私が何かをやろうとしたときに、頭ごなしに「絶対にダメだ」と否定することもありませんでした。進路についても同様です。私が「この学校に行こう」と考えていたときに、「こういう学校もあるよ」と別の選択肢を示してくれたのは父でした。何かを決めてくれるのではなく、私が自分で考えられるように選択肢を広げてくれたのだと思います。そうした父のかかわり方や教育のあり方が、今の私の子育てにも大きな影響を与えているのだと思います。

――そういった方法が分からず、追い詰められる保護者の方もいらっしゃいます。

工藤さん:学校に行けない子どもの中には、自分自身が「行かなくちゃ」と思い、苦しんでいる子もいます。そこを追い詰めてしまうのは子どもにとっても辛いと思います。その子が今どんな状態にいるのかを見ながら、「こういう場所もあるよ」「こういう方法もあるよ」と選択肢を示していく。決めるのは子ども自身でも、大人にはその子が選べる世界を少し広げる役割があると思っています。

不登校の子を持つ親が「ペダゴー資格認定講座」を受けた変化

――ペダゴージャパンが提供している「ペダゴー資格認定講座」には、不登校の子を持つ保護者の方もいらっしゃるそうですね。

工藤さん:受講生の3割ほどが、不登校のお子さんを持つ保護者の方です。ご自身のお子さんとのかかわりを考えたいという方もいれば、「子どもだけを変えようとするのではなく、子どもを取り巻く環境や大人の価値観も見直していきたい」という思いで学びに来られる方もいます。フリースクールの経営者の方、公立小学校の校長先生、教育長の方なども受講されています。

――具体的にはどんな内容を学ぶのでしょうか。

工藤さん:デンマークの民主主義や子どもの権利、人をどう見るかという考え方、関係づくり、遊びなど、ペダゴーの実践を支えているさまざまなテーマを学びます。実際にデンマークでペダゴーとして働く日本人の方の講義を聞くこともできます。

講座は半期ごとに10日間で構成され、オンラインと対面を組み合わせながら行っている。

――受講された保護者の方の変化を感じることがありますか?

工藤さん:ペダゴーの学びは一度学んで終わるものではなく、日々のかかわりの中で振り返りながら少しずつ自分のものにしていくものだと思っています。この講座は、子どもを学校へ行かせるための方法を教える講座ではありません。むしろ、受講生自身が自分の子ども観やかかわり方を見つめ直し、少しずつ「あり方」が変わっていく。そこに大きな意味があると感じています。

――どんなふうに変わるのでしょうか。

工藤さん:日常で子どもとかかわっているときに「あ、私って今すごく支援しようとしている」「今の言い方は指導的だったかな」というように、自分のかかわりを省みるようになります。省みて気がつけば、Being withのかかわりに戻っていけるんです。そういった積み重ねで徐々に保護者の「あり方」が変わっていきます。大人のかかわり方が変わると、親子の間に流れる空気や対話も少しずつ変わっていきます。子どもは、そうした大人の変化をよく感じ取っていると思います。

(受講生の声・一部抜粋)

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自分の子どもの不登校経験から日本の教育に疑問を持ち、たどり着いたのがペダゴーの学びです。母として、我が子に対する過去の自分の言動を振り返り、反省する機会にもなりました。上に立つのではなく、横にそっと寄り添う。安心できる土台をつくる。子ども自身の力で育つ様子を信じて見守る。このようなかかわりの大切さを改めて学ぶことができました。教育関係者の方はもちろん、自分のような保護者の方にもぜひ学んでいただきたい内容の講座です。

――「ペダゴー資格認定講座」は半期全10回の講座ですが、2年間繰り返し受けることが可能だそうですね。

工藤さん:そうなんです。受講後4クール受けることができます。やはり一度講座を受けても、いざ現実に戻れば、周りの価値観の違いに心が折れてしまうこともあります。繰り返し学ぶことで、「これで良かったんだ」とペダゴーの理念に立ち返っていくんです。それに、受講生同士の交流も盛んです。オンラインとリアルの両方がある講座なのですが、リアルの懇親会では、受講者同士がずっと前から知り合っていたかのようにとても親しい間柄になっています。期を超えた交流も生まれています。遠方の受講者に会いに行ったり、職場見学をし合ったりというような話を聞くと、この講座は知識を一方的に受け取るだけではなく、学び合いの場なのだと感じます

期を超えた勉強会などもある(写真は公式Instagramより)

大人がワクワクする人生を送ることが、子どものワクワクを作る

――工藤さんがペダゴージャパンとしての取組を通して、一番伝えたいことは何なのでしょうか。

工藤さん:私自身、ペダゴーの学びを通して、デンマークでは民主主義が制度だけではなく、日々の生活の中に息づいていることに大きな希望を感じました。特に、子どもの権利については日本でも2023年に「こども基本法」が施行され、これまで以上に意識されるようになっています。子どもの声を聞くことや、子どもを一人の権利の主体として尊重することを、もっと日常の中に広げていきたいと思っています。でも、あまり大義名分のように声高に言うのは違うかなという思いもあって…

――それはどういうことでしょうか。

工藤さん:このペダゴーの考え方を広めるという活動は、私の人生のワクワクを追求している感じなんです。ペダゴーについて学ぶたびに「なるほどな」と私自身がワクワクします。私のワクワクを追求していったら、たまたま巡り合えたのがペダゴーだったんです。だから、これからも純粋にワクワクすることをやっていきたいと思っています。

――純粋なワクワクって素敵ですね。

工藤さん:デンマークでとても印象的だったのが、大人自身がすごく人生を楽しんでいることでした。昨年9月にデンマークを訪れた際も、大人が楽しむ風景が日常にありました。海岸を犬と散歩していた男性が、急に服を脱いで海に飛び込んだり。若い学生が桟橋に腰をかけてサンドイッチを食べている向こう側で、カヤックで通勤する人がいたり。長い休暇をとって家族で過ごしたり。日常の中で自分の好きなことを楽しんだりする姿をよく目にします。子どもたちは、そうやって大人が自分の人生を楽しむ姿を見て育っているんですよね。

――ワクワクしている大人が周りにいると、子どもも自然にワクワクしそうですね。

工藤さん:子どもにとって、時間を忘れるくらい何かに夢中になる体験はとても大切だと思います。そして、それは子どもだけに求めるものでもないと思うんです。だから子どもだけではなく、大人もワクワクしながら生きていけることが大事だと思うし、私もそこを大事にしています。

――最後に、不登校に悩む保護者の方へ向けてメッセージをお願いします。

工藤さん:不登校という出来事を、子ども本人や保護者だけの問題として抱え込まないでほしいと思います。子どもが学校に行けなくなる背景には、その子自身の状態だけでなく、学校や人間関係、環境とのかかわりなど、さまざまな要因があります。だから、「自分の育て方が悪かったのでは」と、自分だけを責めないでほしいんです。不登校を一つの出来事として受けとめながら、自分たちの生き方や社会とのかかわり方を見つめ直すきっかけとして受け止めていただけたらと思っています。


 工藤さんに取材をして印象的だったのは「まず今のその子を受けとめる」という言葉でした。

 不登校が長期化すると、親として自分のかかわりに不安や焦りを感じることもあります。「見守ってください」と言われても、それは決して簡単なことではなく、大きな忍耐を要します。「今のあなたで大丈夫だよ」というまなざしを持ちながら、ときに自分の気持ちも素直に伝えていく。そんなかかわりを積み重ね、子ども自身が次の一歩を考え始めたときには、そっと選択肢を示していく。そんなかかわりが大切なのではないでしょうか。

 その一歩は、必ずしも「学校へ行くこと」ではないかもしれません。自分から外へ出てみようと思うことかもしれないし、好きなことに夢中になることかもしれません。子どもが自ら心を動かされ、自分なりの方向へ歩み出していく。その姿を見守ることも、親にできる大切なかかわりの一つなのかもしれないと思いました。

 今回の記事で、ペダゴーについてもっと深く学びたいと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「ペダゴー資格認定講座」は現在、次回開講(10月)に向けて受講生を募集しています。詳細は一般社団法人ペダゴージャパンの公式サイトからご確認ください。